毎月、各部署や店舗から届くExcelファイルを開く。数字をコピーして、1枚の表にまとめる。ピボットテーブルで集計して、グラフを貼って、資料として提出する。
ここまでは、もう慣れているかもしれません。
ただ、会議で「この数字、どういう傾向なの?」「他の切り口でも見せてほしい」と言われた瞬間に手が止まる。もう一度Excelを開いて、また似た作業を繰り返す。
「これって分析って言えるのかな」と思ったことはありませんか。
調べてみると、BIツール、SQL、統計、Python、データサイエンス……知らない言葉が並びます。しかもどれも「これからは必須」と書かれている。何から手をつければいいのか、かえって分からなくなる。
先に結論を言うと、順番を決める手がかりは3つだけです。自分が扱っているデータの量と場所、その資料を誰かに定期的に見せるのか、そしてデータベースに直接触れる場面があるか。この3つで整理すると、自分に必要なものが見えてきます。
Excelの集計が「分析」に見えない、と感じたら
こんな場面に心当たりがあるでしょうか。
先月と今月の売上を並べて、増減率を計算した。グラフにもした。でも「で、なぜ増えたの?」と聞かれると答えられない。数字を並べただけで、そこから何が言えるかを説明する言葉が出てこない。
あるいは、上司から「ダッシュボードみたいなもの作れない?」と言われた。何を求められているのか、正直あまり分かっていない。
Excelファイルが重くて開くのに時間がかかる、というのも典型的です。フィルタをかけるたびに固まる。誰かに送るとバージョンが分からなくなる。
このあたりに引っかかっている人が、この記事の想定読者です。逆に言えば、Excelの操作自体は困っていないはずです。足りないのは操作スキルではなく、「どの道具をいつ使うか」の見取り図です。
何から学べばいいか迷うのは当然です
データ分析の学習情報は、対象読者がバラバラのまま並んでいます。
データサイエンティストを目指す人向けのロードマップと、営業企画の人が月次レポートを楽にしたい話が、同じ「データ分析の勉強法」として検索結果に出てきます。前者を読めば統計とPythonが必要に見えるし、後者を読めばBIツールだけで十分に見える。
どちらも間違ってはいません。ただ、ゴールが違います。
そして厄介なのは、多くの記事が「まずSQLを覚えましょう」「まずは統計の基礎から」と、それぞれの入口を推してくることです。全部真に受けると、学ぶことのリストが無限に伸びていきます。
なので、最初にやることは学習教材を選ぶことではありません。自分の状況を整理することです。ここを飛ばすと、教材を買っても途中で「これ、自分の仕事に関係あるのかな」と手が止まります。
学ぶ順番を決める3つの視点
整理するときの手がかりは、次の3つに絞れます。
今のExcelは「量」と「場所」で限界に来ていないか
扱っているデータは、Excelで開けるサイズに収まっていますか。そして、そのデータは1か所にまとまっていますか。
複数の場所に散らばったデータを毎回手で集めているなら、それは操作スキルの問題ではありません。データの置き場所の問題です。
誰かに定期的に見せる資料か、自分だけで使う資料か
自分が確認するためだけの集計なら、Excelで十分なことが多いです。
一方、毎週・毎月、同じ形の資料を誰かに提出しているなら、話が変わります。「毎回作り直している」状態を「常に最新が見られる状態」に変えられるのが、BIツールの得意なところです。
データベースに直接触れる場面があるか
社内システムからCSVを出してもらっている、あるいは「このデータほしいんですけど」と情報システム部門に依頼している。そういう場面が月に何度もあるなら、SQLを少し覚える価値があります。
逆に、必要なデータはいつも手元のExcelやスプレッドシートにある、という人は、SQLを後回しにしても困りません。
この3つを見た上で、それぞれをもう少し具体的に見ていきます。
Excelの限界を実感で確かめる
行数や複数シートの統合で重くなるのはサイン
Excelは分析の入門ツールとしては扱いやすい一方、扱えるデータ量に上限があり、外部のデータと統合したりリアルタイムに連携したりする用途は得意ではないと整理されています(ExcelとBIツールの違い|KSC)。
これは体感でも分かります。ファイルを開くのに数十秒かかる。VLOOKUPを入れた瞬間に固まる。シートを5枚コピーして貼り合わせている。
こういう作業に時間を取られているなら、それはExcelの使い方が悪いのではなく、Excelに向いていない仕事をさせている可能性があります。
毎回同じ集計を手作業で繰り返しているなら次の一歩が必要
もうひとつのサインは、繰り返しです。
毎月5店舗から届くファイルを開いて、売上列をコピーして、1枚の表に貼る。その作業が毎月30分かかっている。手順は完全に決まっている。
決まった手順を人間が毎回やっている状態は、道具を変える判断がしやすい場面です。ここで選択肢になるのがBIツールですが、その前に注意点があります。
BIツールを導入しても、そもそも社内のデータが分散していたりシステムと繋がっていないと、結局Excelに戻ってしまう、という現場の指摘があります。つまり、道具を変える前に「どのデータをどこから取るか」を決めておく必要があります。
BIツールは「共有できるExcel」と考える
BIツールという言葉は、企業が持つデータを集めて分析し、業務や経営に活かすためのソフトウェアを指します。定義としてはこれで合っていますが、初めて聞くと何ができるのか想像しにくいと思います。
ざっくり言えば、いつも同じ形で見たい表とグラフを一度だけ作って、あとは中のデータだけを差し替えれば自動で更新される仕組みです。
Excelで毎月作り直しているレポートを、1回だけ作って置いておく。そういうイメージが近いです。
Looker Studioが実際にやってくれること
無料で試しやすいのが、GoogleのLooker Studioです。Googleアカウントがあれば使い始められます(Udemyメディア、バズ部)。
やることの流れは、だいたいこうなります。
- データのある場所を指定する(スプレッドシート、Excel/CSV、データベースなど)
- グラフや表を画面に置く
- 見やすいように並べる
- 見せたい相手にリンクを共有する
操作はドラッグ&ドロップが中心で、コードは書きません。Excelでグラフを挿入したことがあるなら、雰囲気はそれほど遠くないはずです。
一度作ってしまえば、元のデータが更新されると画面も更新されます。「先月の資料の最新版どこ?」というやりとりが減るのが、実務での一番の変化かもしれません。
無料で試せる範囲はどこまでか
無料版でも、データへの接続、グラフ作成、ダッシュボードの共有といった基本機能は使えて、個人や小さなチームのレポートなら足りることが多い、という評価が複数の解説記事で共通しています。
有料版との機能差や料金の細かい条件は、時期によって変わります。ここは公式ページで確認するのが確実です。
いずれにしても、「まず試す」段階で費用の心配をする必要はありません。手元のスプレッドシートを1つ繋いでみるところから始められます。
SQLは「Excelの列選択」の延長線と考える
SQLと聞くと、プログラミングの一種だと思って身構えるかもしれません。実際には、データの保管庫に対して「この条件のこのデータをください」と注文を出す言葉に近いものです。
プログラムのように処理の流れを組み立てるわけではありません。欲しいものを指定するだけです。
SELECT・FROM・WHEREはExcelのどの操作に近いか
最初に出てくる3つは、Excelの操作に置き換えられます。
SELECT… どの列を見たいか(Excelで列を選ぶ操作)FROM… どの表から取るか(どのシートを見るか)WHERE… どの行に絞るか(オートフィルタをかける操作)
たとえば「売上テーブルから、東京都の店舗の売上金額だけ見たい」なら、列を指定して、表を指定して、条件を書く。それだけです。
Excelで「シートを開いて、フィルタをかけて、必要な列を見る」という作業を毎日やっているなら、頭の使い方はほとんど同じです。
最初に覚える範囲はごく限られている
非エンジニアが最初に覚える構文は数個で足りる、という説明が、実務者の記事で共通しています(非エンジニアのSQL学習ことはじめ)。
学び方についても、教科書を順に読むより、実務で使うデータに対して手を動かした方が身につきやすいという意見があります(非エンジニアが効率的にSQLを学習する方法。ただし2018年の記事なので、ツール周りの記述は古い可能性があります)。
習得にかかる期間については、「3か月」「半年」といった体験談が個人ブログに書かれていますが、いずれも個人の記録です。標準的な目安として受け取らない方がいいと思います。
もうひとつ、SQLを学ぶ意味として挙げられているのが、自分で書けなくても、他人やAIが書いたクエリの意味と前提が読めるようになることです。「このデータ、条件が違うんじゃないですか」と気づけるかどうかは、実務ではかなり大きい差になります。
BigQueryを使って非エンジニア向けにSQLを学ぶオンライン講座(Udemy)もあります。料金はセールで変動するので、購入前に確認してください。
制度やリスキリング支援は「後押し」として知っておく
学習にお金をかける段階になったら、公的な支援があることも知っておいて損はありません。
経済産業省は「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を実施していて、デジタル分野の学習講座を集めたポータルサイト「マナビDX」が2022年3月に開設されたと複数の媒体が伝えています(HR NOTE)。AI・IT・データサイエンス分野を対象にした「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」もあります。
マナビDXや認定講座は学ぶ内容そのものを保証するものではない
ただ、ここは冷静に見ておいた方がいい部分です。
認定や補助の対象になっていることは、「一定の基準を満たした講座である」という情報にはなりますが、あなたの仕事に合っているかどうかは別の話です。認定講座の一覧から選べば正解、というものではありません。
補助率や対象者の条件は年度によって変わります(ALL DIFFERENT)。使う可能性があるなら、その時点で公式サイトを確認してください。
順番としては、先に自分の状況を整理する。講座を選ぶ段階になってから制度を調べる。この順にした方が迷いません。
独学で始められるか、確認しておきたいこと
無料のBIツールとオンライン教材で最初の型は作れる
最初の一歩は、独学で十分いけると思います。
Looker Studioは無料で始められますし、SQLも無料で学べる学習サイトがいくつもあります。「手元のデータを繋いで、グラフを1枚作って、共有リンクを出す」までなら、教材を買わなくても到達できます。
非エンジニアの学習順として、Excel → BIツール → SQL という段階を勧める意見もあります(通勤3時間からの生存戦略)。公的な推奨ではありませんが、目に見える成果が早く出る順番としては納得しやすい流れです。
扱うデータが複雑になったら講座やスクールも選択肢になる
独学が止まりやすいのは、この先です。
社内のデータベースに接続する必要が出てきた。複数のテーブルを組み合わせないと欲しい数字が出ない。そもそも「何を分析すれば意思決定に役立つのか」が分からない。
データ分析のスキルは、ツールの操作だけでなく、課題の設定や結果の解釈まで含む、という整理もあります。この部分は独学だと自己流になりやすく、フィードバックをくれる相手がいた方が早い領域です。
Excelベースの分析を学ぶ手段としては、スクールの講座や書籍、「ビジネス統計スペシャリスト」のような資格も用意されています。ただ、これらは「独学で詰まったときの選択肢」として頭に入れておく程度で十分です。最初から申し込む必要はありません。
まず動かしてみる小さな一歩
今週できる行動を1つだけ挙げるなら、これです。
いま手元にある月次の集計ファイルを、Googleスプレッドシートにコピーして、Looker Studioに繋いでグラフを1枚作ってみる。
30分あれば、たぶん形になります。うまくいかなくても構いません。触ってみると「あ、これは元のデータが整っていないと無理だな」といったことが体感で分かります。その気づきの方が、記事を10本読むより次の判断に効きます。
そして、グラフを作りながらこう考えてみてください。「この資料、毎月手で作り直す必要あるかな」と。
まとめ
何を学ぶかで迷ったら、次の3つだけ確認すれば決められます。
- 扱っているデータは、量と置き場所の面でExcelに収まっているか
- その資料を、誰かに定期的に見せているか
- 社内のデータベースからデータを取る場面があるか
2つ目に当てはまるならBIツールから、3つ目に当てはまるならSQLも視野に入れる。どちらも当てはまらないなら、まだExcelで十分です。
制度やスクールは、学習を続けるための後押しです。順番としては後です。先に自分の状況を整理した方が、教材選びで迷わなくなります。
そして最初の一歩は、大きくなくていいと思います。手元のファイルを1つ繋いで、グラフを1枚作る。そこで感じた「これは便利だ」「ここが面倒だ」が、次に学ぶものを教えてくれます。


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