先週、ChatGPTに議事録の要約を頼んだら、ちょうどいい長さで出てきた。
今週、同じように頼んだら、やたら長い箇条書きが返ってきた。
「あれ、前はうまくいったのに」と思って、少し言い回しを変えて再送信する。今度は短すぎる。結局3回やり直して、最後は自分で書き直した。
こういう時間の使い方、心当たりはないでしょうか。
この差は、AIとの相性や運では説明しきれません。多くは、指示の「型」を持っているかどうかの差です。そしてこの型は、OpenAIやGoogleが公開資料や講座という形で整理しはじめている領域でもあります。エンジニアだけのものではありません。
とはいえ、誰もが体系的に学ぶ必要があるわけでもない。この記事では、学ぶ価値があるかを3つの軸で判断できるように整理して、最後に今日試せることを1つ挙げます。
「同じ聞き方のはずなのに、答えの質が違う」と感じたことはないだろうか
ChatGPTを日常的に使っている人ほど、こういう場面に出会います。
- うまくいったときのプロンプトを、もう一度再現できない
- 出力が長すぎる、短すぎる、トーンが合わないで毎回直している
- 「もっと簡潔に」「もう少し具体的に」と何度も追加指示を出している
- 同僚に「どう聞いてるの?」と聞かれても、うまく説明できない
私も、良い出力が出たときに限ってその会話を消してしまって、後から思い出せないことがあります。
厄介なのは、うまくいかない原因が見えないことです。文章としてはちゃんとした指示を出しているつもりなのに、返ってくるものがズレる。だから「言い方を変えてみる」しかできず、当たるまで試行錯誤が続きます。
この試行錯誤、1回あたりは数分です。ただ、毎日繰り返していると、地味に時間を持っていかれます。
その差は「センス」ではなく「型」の差かもしれない
うまく使えている人を見ると、なんとなく「AIとの相性がいい人」に見えます。でも実際に彼らのプロンプトを見せてもらうと、特別な言葉づかいをしているわけではないことが多い。
やっていることは、だいたい共通しています。**前提を先に書く。求める形式を指定する。参考になる材料を渡す。**この3つが入っているかどうかで、返ってくるものはかなり変わります。
つまり、センスというより手順の問題です。手順なら、覚えられます。
「プロンプトエンジニアリング=エンジニアの仕事」という誤解
「エンジニアリング」という言葉のせいで、プログラミングが必要そうに聞こえます。ここで身構えてしまう人は多いはずです。
実際は、AIに指示を出して期待どおりの結果を得るための工夫をまとめたもの、と考えて差し支えありません。フューチャー社の技術ブログでは、これを「AIにうまく指示を出して期待した結果を得るためのテクニック集」と表現しています。コードを書く話ではなく、指示の書き方の話です。
もう少し言うと、これは仕事で人に依頼するときの整理とよく似ています。「この資料を、来週の役員会で使うので、A4一枚に、結論を最初に書いて」と伝えるのと、「資料まとめといて」と伝えるのとでは、返ってくるものが違う。それと同じ構造です。
OpenAIやGoogleが非エンジニア向けにも体系化している理由
「型がある」というのは、私の感想ではありません。ツールを作っている側が、実際に文書化しています。
OpenAIは、プロンプトの書き方についての公式ガイドやヘルプ記事を公開しています。どう書けば意図が伝わりやすいかを、開発元自身が整理して出している状態です。
Googleは、日本語のオンライン講座「Google Prompting Essentials」をCoursera上で提供しています。日本リスキリングコンソーシアムの案内によると、生成AIに明確かつ具体的に指示するための内容を10時間以内で学べるものとされています。前提知識は求められていません。
ツールを作っている側が「こう書くとうまくいく」を明文化している。これは、うまくいく書き方には再現性がある、ということの裏返しでもあります。
学ぶ価値があるかは、この3つで判断できる
とはいえ、全員が時間を割いて学ぶべきだとは思いません。
判断の材料は、次の3つで足ります。
同じような指示を繰り返し出しているか
週に何度も、似た種類の依頼をAIにしていませんか。議事録の要約、メール文面の下書き、提案資料のたたき台。同じ作業が繰り返されているなら、毎回ゼロから考える必要はなくなります。
出力のズレが仕事の手戻りにつながっているか
出てきた文章をそのまま使えず、毎回手直ししている。あるいは、事実関係がずれていて確認に時間がかかる。この手直しの時間が積み上がっているなら、指示の側を直したほうが早い場合があります。
自分のやり方を人に共有する場面があるか
チームで同じツールを使っている、後輩に使い方を聞かれる、社内で標準的な使い方を決めることになった。こういう場面では、「なんとなくうまくいく書き方」では通用しません。説明できる形になっている必要があります。
ひとつも当てはまらないなら、今のまま使いながら慣れていくので十分だと思います。逆に、1つでも当てはまるなら、少し時間を投じる価値はあります。
以降で、この3つをそれぞれ具体的に見ていきます。
繰り返しの多い仕事ほど、「毎回考える」から「型に当てはめる」に変わる
毎回書き直す代わりに、型に当てはめて済ませる
毎週の会議録を要約する作業を思い浮かべてください。
毎回、白紙から指示を書いていると、そのときの気分で書き方が変わります。「簡潔に」と書く週もあれば、書き忘れる週もある。だから出力もブレます。
代わりに、こういう枠を1つ作って保存しておく。
【役割】社内会議の議事録をまとめる担当
【入力】以下の会議メモ
【出力形式】決定事項/保留事項/次のアクション の3見出し
【制約】各項目は1行50字以内。推測で補わず、メモにない内容は書かない
【会議メモ】
(ここに貼る)
次からは、メモを貼り替えるだけです。考えるのは初回だけで済みます。
大事なのは、この枠が「うまくいったときの条件」を固定してくれることです。うまくいった理由が形として残るので、再現できます。
なお、貼り替え作業そのものが毎日発生するようになったら、ChatGPT APIで自作ツール化に向いているかを見極める3つの視点も判断材料になります。型が固まっているほど、自動化に載せやすくなるためです。
OpenAIが推奨する「区切り方」の考え方
上の例で使った【】のような区切り、これは思いつきではありません。
OpenAIの公式ドキュメントでは、プロンプトの構造をモデルに伝えるために、Markdownの見出し記号やXMLタグで各部分を区切ることが推奨されています。役割、指示、制約といった要素を混ぜずに分けて書く、という考え方です。
もうひとつ、公式ガイドで技法として紹介されているのが、参照テキストを渡す書き方です。「この資料の内容に基づいて答えてください」と材料を与えたうえで質問する形にすると、AIが手持ちの一般知識で埋めてしまう余地が減ります。社内の資料や過去の議事録を貼って使う場面では、これがそのまま効きます。
区切りと参照テキスト。この2つを意識するだけでも、毎回の書き直しはかなり減るはずです。
出力のブレを減らす手がかりは、実はそれほど多くない
言い回しを変えて何度も試すやり方は、当たるまでの回数が読めません。ここで知っておくと得なのは、「試す方向」が実はある程度パターン化されていることです。
Zero-shot、Few-shot、Chain-of-Thoughtといった手法をまとめたPrompt Engineering Guideのようなサイトもあり、こうした手法は広く共有されています。名前を全部覚える必要はありません。使う場面が多いのは、次の2つです。
段階を踏ませると答えが変わる場合がある
「この3つの案のうち、どれが一番いいか教えて」と聞くと、それらしい結論が返ってきます。ただ、根拠が薄いことがある。
このとき、「まず各案の判断材料を整理してから、最後に結論を書いて」と順序を指定すると、出力の中身が変わることがあります。考える過程を書かせてから結論に進ませる、という考え方です。Chain-of-Thoughtやstep-by-stepと呼ばれるもので、複雑な判断を含むタスクで効きやすいと解説されています。
逆に、単純な言い換えや要約では、そこまで必要ありません。使い分けの目安は「自分が考えても一手で答えが出ないことかどうか」あたりです。
見本を1つ見せるだけで変わることもある
出力の形式が毎回ズレるなら、言葉で説明するより見本を貼るほうが早いことがあります。
たとえば社内報の見出しを作らせたいとき、「キャッチーに」と書くより、過去の実物を2〜3本貼って「この調子で」と伝えたほうが近いものが出ます。例を見せて形式を伝えるやり方は、Few-shotと呼ばれます。
私の感覚では、トーンや形式のズレはこれで解決することが多いです。逆に、内容の正確さがズレているときは、見本ではなく参照テキストを渡す側の問題であることが多い。
つまり、ブレの種類によって打つ手が違います。この対応関係を持っているだけで、当てずっぽうの試行錯誤は減ります。
人に伝える場面があるなら、言葉にできることがそのまま強みになる
3つ目の軸が、実は一番効いてくるかもしれません。
自分ひとりで使っているうちは、感覚でも困りません。ただ、「チームで同じ品質の出力を出したい」となった瞬間に、感覚は共有できなくなります。
リコーのコラムでは、業務でプロンプトを使う場合の考え方として、代表的な入力パターンで安定性を確認する、プロンプトを直すたびに変更履歴を残す、といった運用の視点が示されています。要は、プロンプトを「一度書いて終わりの文章」ではなく、直しながら育てていくものとして扱う発想です。
これを大げさな仕組みにする必要はありません。共有フォルダに1つファイルを作って、うまくいったプロンプトと、どんな場面で使うかを書き添えておく。それだけでも、チーム内での再現性はかなり変わります。
そして、この「なぜこう書くのか」を説明できる状態は、そのまま職場での立ち位置になります。AIツールの導入が進んでいる会社ほど、「使える人」より「使い方を整理できる人」が足りていない印象があります。
「公的な講座があるから安心」と思う前に確認したいこと
ここまで読んで「じゃあ講座を探そう」と思った方へ、先に整理しておきたいことがあります。
Googleの無料講座は何を教えてくれるのか
Googleの「Google Prompting Essentials」は、日本語のオンライン講座としてCoursera上で提供されています。生成AIへの具体的な指示の出し方を10時間以内で学べる内容として案内されており、前提知識は求められていません。
日本リスキリングコンソーシアム経由で、新規会員・先着1万名に無料枠を提供するという告知も出ていました。ただし、この無料枠が今も続いているかはこちらで確認できていません。申し込む前に、公式ページで現在の条件を見てください。
内容としては、これから型を身につけたい人向けの入門にあたります。すでに毎日ChatGPTを使い込んでいる人には、知っている話も多いかもしれません。
マナビDXに載っている講座は誰向けか
経済産業省とIPAが運営する学び直しポータル「マナビDX」にも、プロンプトエンジニアリングを扱う講座が掲載されています。
ただ、確認できた講座はPython経験者向けでした。プロンプトの基礎に加えて、LLMを使ったbotやWebUIの開発体験まで含む内容です。開発の経験がない人が想定している「ChatGPTをうまく使いたい」とは、方向が違います。
「公的なポータルに載っている=非エンジニア向けに整備されている」とは限らない、ということです。講座を探すときは、掲載先の権威ではなく、対象者の欄を先に見たほうが早いと思います。この見極め方は、社会人のAIスクール選びで確認したい3つの基準とも共通します。
自分に合う学び方かは、ここで見分ける
公式ドキュメントを読むだけで十分な人
すでに毎日ChatGPTを使っていて、うまくいく/いかないの感触がある人は、独学で足りることが多いです。
OpenAIのプロンプトガイドやヘルプ記事は無料で読めます。英語ですが、翻訳しながらでも読める分量です。Prompt Engineering Guideのような、手法をまとめた解説サイトもあります。
こういう人は、体系的な講座を受けるより、自分がよく使う3つのプロンプトを構造化して保存するほうが、たぶん効果が早く出ます。
講座で学んだほうが早い人
一方で、次のような状況なら、講座を挟む価値があります。
- 何が分かっていないかが分からず、調べる取っかかりがない
- 独学だと後回しになり、結局手を付けないまま数か月が過ぎている
- 社内で使い方を教える立場になり、説明の枠組みが必要になった
3つ目は特に、独学の断片的な知識だと苦しいところです。人に教える前提なら、順序立てて整理されたものを一度通しで受けたほうが結果的に早い。
ちなみに、民間の研修会社が1日完結型のプロンプトエンジニアリング研修を提供している例もあります。会社の研修予算が使えるなら、選択肢に入れてもいいと思います。
最初の一歩は、今使っているプロンプトを1つ見直すことでいい
学習計画を立てる必要はありません。今日できることは、もっと小さいものです。
直近1週間でChatGPTに出した指示のうち、一番よく使うものを1つ選んでください。議事録の要約でも、メールの下書きでも構いません。
そのプロンプトを、こう分解して書き直します。
- 役割:どんな立場で答えてほしいか
- 入力:何を材料に使うか(資料があれば貼る)
- 出力形式:どんな形で返してほしいか
- 制約:文字数、書いてほしくないこと
そして次に同じ作業をするとき、この形で投げてみる。手直しの回数が減ったかどうかを見てください。
減らなければ、ブレている箇所を特定します。形式がズレるなら見本を貼る。内容がズレるなら参照する資料を渡す。判断が浅いなら、結論の前に整理を書かせる。打つ手はこの3つで、かなりの部分がカバーできます。
出力が安定しない原因は、運や相性ではなく、指示の型を持っているかどうかにあることが多い。学ぶ価値があるかどうかは、繰り返しのタスクがあるか、ズレが手戻りになっているか、人に共有する場面があるか、この3つで判断できます。
講座や制度は、その判断の後で探せば十分です。まずは、よく使うプロンプトを1つ、枠に当てはめて書き直すところから。それが今週できる、一番小さくて効果の見えやすい一歩です。


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